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有価証券報告書 新型コロナウイルス感染症 金融商品取引法

有価証券報告書等の「事業等のリスク」について開示府令の不備ではないかと思ったこと

投稿日:2020年5月16日 更新日:

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関連して、有価証券報告書(以下「有報」といいます。)及び四半期報告書(以下「四半報」といいます。)の「事業等のリスク」欄の記載が注目されています。

(「新型コロナウイルスの名称はCOVID-19?正式名称は?開示書類でどう書けば良い?」もご参照ください。)

その作成にあたり、「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下「開示府令」といいます。)の不備ではないかと思ったことがあり、記事にしてみました。

当サイト「株式総務」の運営者と同じように有価証券報告書の作成実務を担当されている方の考えが気になるところです。




有価証券報告書等の「事業等のリスク」について開示府令の不備ではないかと思ったこと

有価証券報告書

まず、開示府令において、有報の「事業等のリスク」について、以下の通り定められています。

主要なリスクについて記載することが求められています。あわせて、着色箇所にもご注目ください(着色は当サイト「株式総務」の運営者によるものです。)。

(31) 事業等のリスク
a 届出書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下a及び(32)において「経営成績等」という。)の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスク(連結会社の経営成績等の状況の異常な変動、特定の取引先・製品・技術等への依存、特有の法的規制・取引慣行・経営方針、重要な訴訟事件等の発生、役員・大株主・関係会社等に関する重要事項等、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項をいう。以下aにおいて同じ。)について、当該リスクが顕在化する可能性の程度や時期、当該リスクが顕在化した場合に連結会社の経営成績等の状況に与える影響の内容、当該リスクへの対応策を記載するなど、具体的に記載すること。記載に当たっては、リスクの重要性や経営方針・経営戦略等との関連性の程度を考慮して、分かりやすく記載すること。
b 提出会社が将来にわたって事業活動を継続するとの前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況その他提出会社の経営に重要な影響を及ぼす事象(以下bにおいて「重要事象等」という。)が存在する場合には、その旨及びその具体的な内容を分かりやすく記載すること。また、当該重要事象等についての分析・検討内容及び当該重要事象等を解消し、又は改善するための対応策を具体的に、かつ、分かりやすく記載すること。
c 将来に関する事項を記載する場合には、当該事項は届出書提出日現在において判断したものである旨を記載すること。

企業内容等の開示に関する内閣府令

四半期報告書

まず、開示府令において、四半報の「事業等のリスク」について、以下の通り定められています。

主要なリスクが発生した場合又は重要な変更があった場合、その旨及びその具体的な内容を記載することが求められています。

⑺ 事業等のリスク
a 当四半期連結累計期間(四半期連結財務諸表を作成していない場合には当四半期累計期間。⑻a及び⒅fにおいて同じ。)において、四半期報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社(四半期連結財務諸表を作成していない場合には提出会社。以下a及び⑻aにおいて同じ。)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(指定国際会計基準又は修正国際基準により四半期連結財務諸表を作成した場合は、これに相当するもの。以下この様式において同じ。以下⑺及び⑻において「経営成績等」という。)の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスク(連結会社の経営成績等の異常な変動、特定の取引先・製品・技術等への依存、特有の法的規制・取引慣行・経営方針、重要な訴訟事件等の発生、役員・大株主・関係会社等に関する重要事項等、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項をいう。)が発生した場合又は前事業年度の有価証券報告書に記載した「事業等のリスク」について重要な変更があった場合には、その旨及びその具体的な内容を分かりやすく、かつ、簡潔に記載すること。
b 提出会社が将来にわたって事業活動を継続するとの前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況その他提出会社の経営に重要な影響を及ぼす事象(以下bにおいて「重要事象等」という。)が存在する場合には、その旨及びその具体的な内容を分かりやすく記載すること。また、当該重要事象等についての分析・検討内容及び当該重要事象等を解消し、又は改善するための対応策を具体的に、かつ、分かりやすく記載すること。
c 将来に関する事項を記載する場合には、当該事項は当四半期連結会計期間(四半期連結財務諸表を作成していない場合には当四半期会計期間。⑻b、⑼及び⒅gにおいて同じ。)の末日現在において判断したものである旨を記載すること。

企業内容等の開示に関する内閣府令

疑問点

開示府令上、有報については、主要なリスクが「顕在化していない前提」で、主要なリスクの記載を求め、四半報については、主要なリスクが「顕在化した場合」に、顕在化した主要なリスクの内容について記載を求めているように読めます。

平時だったら何も疑問を抱かなかったかもしれません。
ただ、新型コロナウイルス感染症の感染拡大及びそれに伴う経済への影響という主要なリスクが顕在化し、かつ、多くの企業が期末を迎えた(=有報提出を控えている。)現在、有報でも、顕在化した主要なリスクの内容について記載しなければならないのでは、と思ったのです。

もちろん、実務的には、3月決算の各社は、有報にも、顕在化した新型コロナウイルス感染症という主要なリスクの内容について記載されるものと思います。

ただ、開示府令上は、顕在化した主要なリスクの内容について、必ずしも有報への記載を求めていないため、書かなくても良いのかもしれません。

開示府令の不備なのかなという気がしています。

補足

上記で引用した開示府令は、平成31年1月31日付けで公布・施行された改正を経たものです。
ただ、改正前の開示府令であっても、同様の疑問が生じることには変わり有りません。

まとめ

開示府令の不備なのかな?という気もしますが、顕在化した新型コロナウイルス感染症という主要なリスクの内容について有報でも記載するようにしましょう!

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-有価証券報告書, 新型コロナウイルス感染症, 金融商品取引法

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とある会社で株式総務を担当しています。
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