有価証券報告書(有報)で企業の年収を確認できることは、皆さんご存知かもしれません。
(ご存じでない方は、「画像2枚で有価証券報告書における年収の記載箇所を説明」をご参照ください。)
ただ、その計算方法・算出方法(残業代(時間外手当)が含まれているか。各種手当が含まれているか。賞与(ボーナス)が含まれているか。役員・管理職・非正規雇用の社員(パート、アルバイト)の金額が含まれているか。)に不明点があったり、その金額の信憑性に疑問を持たれている方もいるかもしれません。
当記事では、とある会社で有価証券報告書を作成している当サイト「株式総務」の運営者が、法令を明示して、有価証券報告書における年収の見方について解説したいと思います。
有価証券報告書の年収欄が気になる一般の方にとってだけではなく、「人事部から提供される数字を入力しているだけなので、あまり考えたことがなかった。」という有価証券報告書の作成担当者の方にとっても、お役に立てたらうれしいです。
有価証券報告書における年収の記載箇所
法令で定められていること(法令から確認できること)
法令の条文
まず、法令の定めは以下の通りとなっています。
(29) 従業員の状況
a 最近日現在の連結会社における従業員数(就業人員数をいう。以下(29)において同
じ。)をセグメント情報に関連付けて記載すること。
また、提出会社の最近日現在の従業員について、その数、平均年齢、平均勤続年
数及び平均年間給与(賞与を含む。)を記載するとともに、従業員数をセグメント
情報に関連付けて記載すること。
b 連結会社又は提出会社において、臨時従業員が相当数以上ある場合には、最近日
までの1年間におけるその平均雇用人員を外書きで示すこと。ただし、当該臨時従
業員の総数が従業員数の 100 分の 10 未満であるときは、記載を省略することがで
きる。
役員は含まない、管理職は含む。
法令上、従業員と定義されていますので、役員は含みません。
また、管理職も従業員ですので、管理職は含みます(役員を兼務する管理職(例えば、「取締役○○部長」という肩書の方。)は微妙なところで、その方に支給される金額のうち、役員報酬は含まず、従業員として支給される給与等は含む、とすることが多いと思います。)。
賞与(ボーナス)は含む。
法令上、「平均年間給与(賞与を含む。)」とされていますので、賞与(ボーナス)は含みます。
臨時従業員は含まない。
法令上、臨時従業員に関しては、一定の条件を満たした場合、その人数のみ外書きで示すこととされています。
つまり、従業員と臨時従業員は区別されています。
そのため、臨時従業員の年収(平均年間給与)は、従業員の年収(平均年間給与)に含まれません。
法令で定められていないこと(法令から確認できないこと)
法令で定められていないこと(法令から確認できないこと)も読み取れる。
ここまで、法定事項を確認してきましたが、まだわからないことがあります。
残業代(時間外手当)が含まれているか、各種手当が含まれているか、従業員の定義(その裏返しとして臨時従業員の定義)がわかりません。
これらの非法定事項は、法令で定められていないので、会社の任意で自由に記載することができます。
(もちろん、金融商品取引法の目的(国民経済の健全な発展及び投資者の保護に資すること)に違反するような記載は認められません。)
ただ、これらの非法定事項も、各会社の有価証券報告書等から、推測をすることができます。
所得税計算上の年収と一致している(ことが多い)。
有価証券報告書上の平均年収(平均年間給与)を従業員ごと(個人ごと)に分割すると、その従業員の所得税計算上の年収(源泉徴収票の「支払金額」欄。)と一致している会社が多いと思われます。
理由としては、二重に年収の計算を行うコストが無駄だから、従業員ごとの年収の合計額と有価証券報告書上の年収が異なっている場合に税務当局により痛くもない腹を探られることを避けたいから、二重の年収基準を持つことが内部統制上・コンプライアンス上問題だから、などです。
要するに、二重の年収基準を持つコストにメリットが見合わないのです。
平均年収を水増しして採用につなげても、優秀な人材ならすぐに辞めてしまうでしょう。
有価証券報告書の年収はあてにならないと記載しているウェブサイトもあります。あくまで平均である(従業員ごとの年収はさまざまである。)という意味であてにならないとは言えるかもしれませんが、従業員ごと(個人ごと)に分割すると正確なものになっていると思います。
残業代(時間外手当)は含まれる(ことが多い)。
上記の通り、有価証券報告書上の平均年収(平均年間給与)は、所得税計算上の年収と一致させている会社が多いため、残業代(時間外手当)は含まれることが多いです。
各種手当(通勤手当は除く。)は含まれる(ことが多い)。
有価証券報告書には、注記として「平均年間給与は、賞与及び基準外賃金を含んでいます。」等と記載されていることが多いです。
これは、法令の定めがない事項の基準を、会社が自ら明らかにすることで、投資家の投資判断に資する情報を提供するためです。
基準外賃金という言葉はこれまた法律上の定義の無い言葉ですが、一般的には、労働基準法上の割増賃金(=残業代)の基礎となる賃金を基準内賃金、割増賃金(=残業代)の基礎とならない賃金を基準外賃金としている会社が多いです。
つまり、家族手当等の各種手当も、有価証券報告書上の平均年収(平均年間給与)に含まれることが多いです。
(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
第三十七条 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。(中略)
○5 第一項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。
第二十一条 法第三十七条第五項の規定によつて、家族手当及び通勤手当のほか、次に掲げる賃金は、同条第一項及び第四項の割増賃金の基礎となる賃金には算入しない。
一 別居手当
二 子女教育手当
三 住宅手当
四 臨時に支払われた賃金
五 一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金
通勤手当は微妙。
上記の通り、通勤手当は、基準外賃金を割増賃金の基礎とならない賃金と定義した場合、基準外賃金に含まれます。
しかし、以下の引用の通り、一定金額以下の通勤手当は、所得税計算上の年収には含まれません。
所得税計算上の年収を、有価証券報告書上の平均年収(平均年間給与)のベースとしている企業が多く、また上記の通り基準外賃金の法令上の定義はないため、有価証券報告書上の平均年収(平均年間給与)には通勤手当を含んでいない会社が多いと思われますが、他の項目に記載した手当ほどは断言できません。
2 手当
役員や使用人に支給する手当は、原則として給与所得となります。具体的には、残業手当や休日出勤手当、職務手当等のほか、地域手当、家族(扶養)手当、住宅手当なども給与所得となります。
しかし、例外として、次のような手当は非課税となります。(1) 通勤手当のうち、一定金額以下のもの
(2) 転勤や出張などのための旅費のうち、通常必要と認められるもの
(3) 宿直や日直の手当のうち、一定金額以下のもの
従業員はいわゆる正社員、臨時従業員はいわゆる非正規雇用である(ことが多い)。
繰り返しになりますが、従業員及び臨時従業員について、法令上の明確な定義はありません。
そのため、法令の定めがない事項の基準を、会社が自ら明らかにするために、有価証券報告書には、注記として「臨時従業員には、有期間工、契約社員、パートタイマー、アルバイトを含み、派遣社員を除いております。」等と記載されてることが多いです。
つまり、裏返しで言えば、従業員はいわゆる正社員としている会社が多いです。
一般的には、以下の通り区分している会社が多いです。
・従業員
いわゆる正社員(期間の定めのない労働契約(無期労働契約、正規雇用)の労働者)
・臨時従業員
いわゆる契約社員・パート社員・アルバイト社員等(有期労働契約(非正規雇用)の労働者)
まとめ
有価証券報告書上の平均年収(平均年間給与)に含まれるものは、
いわゆる正社員の給与、賞与(ボーナス)、残業代(時間外手当)、各種手当(通勤手当は除く。)であることが多いです。
有価証券報告書上の平均年収(平均年間給与)に含まれないものは、
役員報酬、いわゆる非正規雇用の賃金であることが多いです。
有価証券報告書上の平均年収(平均年間給与)に含まれるか微妙なものは、
いわゆる正社員の通勤手当です。
という感じでまとめてみましたが、お分かりいただけましたでしょうか。
有価証券報告書のいち作成者としては、年収が気になる気持ちもよくわかりますが、他の項目も一生懸命作成していますので、この機会に、他の項目も閲覧していただけるとありがたいです。
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