有価証券報告書上の年収の記載において、メーカーの年収は低くなる傾向がある、と言われています。
それは、大卒社員と高卒社員が混在しているためと、一般的には言われています。
メーカーの大卒社員の年収を確認したい場合、有価証券報告書では、確認できないのでしょうか?
厳密な金額を確認することは難しいですが、推測は可能です。
当記事では、メーカーの大卒社員の年収の推測方法を解説したいと思います。
なお、本記事の前に「画像2枚で有価証券報告書における年収の記載箇所を説明」を先にご覧ください。
目次
有価証券報告書から推測するメーカー(製造業)の大卒の年収は?
メーカーの平均年収が低くなる理由
それは、メーカーの場合、現業職(いわゆるブルーカラー)の高卒社員と、
総合職(いわゆるホワイトカラー)の大卒社員の年収が区別されていないためです。
例えば、商社A(ほぼ大卒)の大卒の平均年収が1,000万円、
メーカーB(大卒5割、高卒5割)の大卒の平均年収が1,000万円、
高卒の平均年収が800万円だとした場合、
有価証券報告書上、
商社Aの平均年収は1,000万円、
メーカーBの平均年収は900万円となります。
つまり、大卒社員の平均年収が変わらなくとも、
従業員全体の平均年収では差が生じるのです。
以上が、メーカーの平均年収が低くなる理由です。
メーカーの総合職(大卒社員)の平均年収を予想できる理由
ここまでの内容で、勘の良い方は、メーカーの総合職(または大卒社員)の平均年収を予想できる理由を推測できたかもしれません。
そうです。
総合職と現業職の年収の比率(または大卒社員と高卒社員の年収の比率)と、
総合職と現業職の年収の比率(または大卒社員と高卒社員のそれぞれの人数)がわかれば、
総合職(または大卒社員)の平均年収が導けるのです。
$$メーカー社員の平均年収=\frac{総合職の平均年収×総合職の人数+現業職の年収×現業職の人数}{総合職の人数+現業職の人数}$$
もう少し丁寧に説明すると、
まず、メーカー社員の平均年収の求め方は上記の数式で表せます。
次に、総合職の平均年収と現業職の平均年収が一定の係数で正比例すると仮定すると、
現業職の平均年収は「k×総合職の平均年収」ということになります。
$$メーカー社員の平均年収=\frac{総合職の平均年収×総合職の人数+k×総合職の平均年収×現業職の人数}{総合職の人数+現業職の人数}$$
置き換えると、上記の数式で表せます。
そのため、比例定数kとなる総合職と現業職の年収の比率と、
総合職と現業職のそれぞれの人数がわかれば、
総合職の平均年収が導けるのです。
総合職と現業職の年収の比率
総合職と現業職の年収の比率については、残念ながら、有価証券報告書に記載はありません。
また、個別の企業の総合職と現業職の年収の比率については、残念ながら、わかりません。
ただ、企業全体の総合職と現業職の年収の比率については、おおやけに開示されている資料があります。
労働者の雇用形態、就業形態、職種、性、年齢、学歴、勤続年数、経験年数等と、賃金との関係を明らかにすることを目的として厚生労働省が実施する「賃金構造基本統計調査」をご存知でしょうか。
「賃金構造基本統計調査」では、製造業における労働者の種類別にみた賃金の調査も行われています。
本記事記載時点の直近の調査は「令和元年賃金構造基本統計調査 結果の概況」から確認することが出来ます。
令和元年賃金構造基本統計調査では、
管理・事務・技術労働者(いわゆる総合職)の平均年収は「392.5」、
生産労働者(いわゆる現業職)の平均年収は「273.5千円」となっています。
※製造業(メーカー)では、現業職を中心に男性が多いため、男性の値を取り上げています。
$$総合職:現業職=392.5:273.5≒1:0.697$$
上記の通り、総合職と現業職の年収の比率を導くことができ、
比例定数kは0.697ということになります。
総合職と現業職のそれぞれの人数
総合職と現業職のそれぞれの人数ついては、残念ながら、同じく有価証券報告書に記載はありません。
ただ、有価証券報告書の記載内容から推測することができます。
有価証券報告書の「主要な設備の状況」欄をご覧ください。
「主要な設備の状況」欄には、事業所別の従業員数の記載があります。
これも勘の良い方ならもうわかったかも知れませんが、
工場などの生産にかかわる事業所の従業員数を現業職の従業員数とみなし、
本社や研究所などの管理や技術にかかわる事業所の従業員数を総合職の従業員数とみなせば、
おおよそ、総合職と現業職のそれぞれの人数が推測できるのです。
例題
上記の説明を前提に、例題を考えてみます。
有価証券報告書上の年収(「平均年間給与」欄)が800万円だとします。
また、有価証券報告書上の事業所ごとの従業員数(「主要な設備の状況」欄)が以下の通りだとします。
この場合、総合職は2,000人(本社+C研究所+D営業所)、現業職は3,000人(A工場+B工場)とみなします。
事業所名 | 従業員数(人) |
本社 | 1,000 |
A工場 | 2,000 |
B工場 | 1,000 |
C研究所 | 500 |
D営業所 | 500 |
メーカー社員の平均年収の求め方の数式を再度確認します。
$$メーカー社員の平均年収=\frac{総合職の平均年収×総合職の人数+k×総合職の平均年収×現業職の人数}{総合職の人数+現業職の人数}$$
総合職と現業職の年収の比率を再度確認します。
$$総合職:現業職=392.5:273.5≒1:0.697$$
以上のすべてを踏まえて、数式にあてはめます。
総合職の平均年収をxとします。
$$800万円=\frac{x×2,000人+0.697×x×3,000人}{2,000人+3,000人}$$
等式を変形します。
$$2000x+2091x=800万円×5,000$$
$$x=\frac{800万円×5,000}{4,091}$$
$$x=約978万円$$
以上の通り、例題のメーカーの総合職の年収は、978万円と推測することができました。
注意事項
当記事でご紹介した、メーカーの総合職(大卒社員)の平均年収の予想方法は、これまで見てきたように、多くの推測を前提としています。
そのため、必ずしも正確ではありません。
例えば、令和元年賃金構造基本統計調査から推測した総合職と現業職の年収の比率は、すべての製造業(メーカー)に当てはまるとは限りません。
また、有価証券報告書の「主要な設備の状況」欄から、総合職と現業職のそれぞれの人数を推測しましたが、当然のことながら、工場勤務の総合職の方もいれば、本社に勤務する高卒の方もいます。
このように推測を前提としていることをご承知おきください。
まとめ
当記事では、メーカーの大卒社員の年収の推測方法をご説明しましたが、公開資料だけで思ったより簡単に推測できることをご理解いただけたのではと思います。
就職活動や転職活動の際に、参考になれば幸いです。
有価証券報告書のいち作成者としては、年収が気になる気持ちもよくわかりますが、有価証券報告書の他の項目も一生懸命作成していますので、この機会に、有価証券報告書の他の項目も閲覧していただけるとありがたいです。
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有価証券報告書の作成担当者が画像5枚で説明する有価証券報告書の閲覧方法(EDINETの使用方法)
画像2枚で有価証券報告書における年収の記載箇所を説明
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