株主総会招集通知(事業報告や参考書類を含む。)や、有価証券報告書を作成している際、「この記載内容は法律上、絶対に大丈夫だよね?虚偽記載ではないよね?記載漏れはないよね?」と上司・同僚に言われたり、部下・同僚に言ったことはありませんか?
当記事では、そういう時に念頭に置いておいて欲しいことを記事にしました。
目次
法令を最終的に解釈するのは裁判所
「この記載内容は法律上、絶対に大丈夫だよね?虚偽記載ではないよね?記載漏れはないよね?」
と言われたことはありませんか?
(あるいは、言ったことはありませんか?)
株式総務の仕事であれば、株主総会招集通知や、有価証券報告書を作成している際に、言われたことがあるのではと思います。
有価証券報告書については、その記載事項が、企業内容等の開示に関する内閣府令(以下「開示府令」といいます。)で細かく定められていますが、株主総会招集通知については、その記載事項が、会社法施行規則等では、開示府令と比較すると抽象的にしか定められていないため、「絶対に大丈夫か?」と問われると、なおさら、答えに窮してしまうのではと思います。
ディスクロージャー支援会社(印刷会社)でも、株主名簿管理人でも、顧問弁護士でも、法務省でもない。
株主総会招集通知や有価証券報告書を作成する際、ディスクロージャー支援会社(印刷会社)の研究部・相談部、株主名簿管理人(証券代行機関、信託銀行)の証券代行営業部に相談することはあろうかと思います。
ただ、それらの方々が、法令の最終的な解釈をするわけではありません。
また、顧問弁護士に相談することはあろうかと思います。
弁護士は法曹資格の保有者ですが、弁護士が法令の最終的な解釈をするわけではありません。
会社法の所轄官庁は法務省ですが、法務省が法令の最終的な解釈をするわけではありません。
会社法事業報告は一時的に監査役が判断する。
なお、株主総会招集通知のうち、事業報告については、監査役が法令に従った内容であるかを判断します。
(監査役の監査報告の内容)
第百二十九条 監査役は、事業報告及びその附属明細書を受領したときは、次に掲げる事項(監査役会設置会社の監査役の監査報告にあっては、第一号から第六号までに掲げる事項)を内容とする監査報告を作成しなければならない。
(略)
二 事業報告及びその附属明細書が法令又は定款に従い当該株式会社の状況を正しく示しているかどうかについての意見
法令を最終的に解釈するのは裁判所
結論を言えば、「記載内容が絶対に大丈夫か」を答えられるのは、究極的には裁判所だけです。
なぜなら、日本は三権分立しており、司法権を裁判所が担う国家だからです。
法令解釈(法源に基づいてその内容を確定すること。)は、最終的には、裁判所の専権とされています。
※法源とは、裁判などの根拠となりうる法形式で、憲法、法律、命令(政令、府省令、等。)、判例等が含まれると言われています。
なお、先述の法務省は、あくまでも、行政権を担う行政機関の一つであり、司法権を担うわけではありません。
法令に関して、行政がガイドライン・指針等の形式で、解釈を示すことがあります。
有価証券報告書等を作成するときに参考にする「企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)(金融庁)」もその一つです。
それらのガイドライン・指針等はあくまで行政としての解釈であり、裁判所の判断を拘束することもなく、法令を最終的に解釈するのは裁判所です。
「記載内容が絶対に大丈夫か」を問う人は、そのことを念頭に、質問してもらいたいものです。
争いにならなければ裁判所の出番はない。
法令を最終的に解釈するの裁判所だからといって、問答形式で、何でも裁判所が回答してくれるわけではありません。
法的な争いになった際に、その判断を下すことが一般的です。
例えば、事業報告の虚偽記載で損害を被った、第三者(株主等)が取締役を訴えた時、当該第三者が虚偽記載であると主張する事業報告が、真に虚偽記載であるか、法令に基づき、裁判所が判断を下すこととなります。
つまり、絶対的な正解は、法的な争いにならないとわからない可能性が高いです。
だからこそ、ディスクロージャー支援会社(印刷会社)や、株主名簿管理人や、顧問弁護士に相談して、法令に則った書類となるよう、注意深く作成するわけなのです。
行政審判により行政が判断を下す場合がある。
上記の通り、法令解釈は、最終的には、司法権を担う裁判所の専権ですが、行政審判という、行政が訴訟に準じた手続き(準司法手続き)を行う場合があります。
例えば、有価証券報告書等の不提出・虚偽記載等に関する、課徴金納付命令についての手続きが、行政審判に該当します。
課徴金制度について(金融庁)
制度の対象とする違反行為(金融庁)
詳細は、金融庁のウェブサイトの上記のページもご参照ください。
行政審判が認定した事実が裁判所を拘束する法律もありますが、金融商品取引法に基づく金融庁の課徴金納付手続きは裁判所を拘束することはありません。
まとめ
「この記載内容は法律上、絶対に大丈夫だよね?虚偽記載ではないよね?記載漏れはないよね?」と問うときは、法令を最終的に解釈するのは裁判所であることを思い出しましょう。
また、その上で、作成する書類が法令違反とならないよう、ベストを尽くしましょう。